ひとり電通マンのアド戦記

広告代理店ではたらく男の日記

博報堂スタイルとは

 博報堂と聞いてイメージするのは大手広告会社である。
 そこで働く人たちのスタイルを思い浮かべるとき、自由とかラフという言葉を思いつくが、そんな上っ面なイメージで今日の強固な会社組織を築き上げることはできなかったはずである。

 来週の「整理術(思考編)」では、クリエイティブな仕事はゼロから生み出す発想力ではなく基本的な「整理術」から生まれると説く佐藤可士知(かしわ)氏の著書「佐藤可士知の超整理術」を取り上げることにしているが、彼も博報堂出身である。

 博報堂出身に中谷彰宏氏がいる。
 彼の著した「スピード整理術」は今週の「整理術(空間編)」で取り上げている。

 広告人というと時代の最先端をいく華やかなキャリアを想像してしまうが、長年博報堂に勤め多くの人材を育ててきた高橋宜行氏によるとアイデアよりも先に仕事人としての基本姿勢が大切なのだという。

 変化のスピードが速い時代にテクニックだけに頼っていると必ず途中でハードルを越えられなくなる。だからこそ生き方の姿勢に関わる「根っこ」が必要となる。

 本書は、新しいものを創り出すとき、他との差異を生み出すための「考え方」のよりどころのようなものを説いた本である。それは著者が長年にわたり社員達に教えてきた博報堂のスタイルでもあり、研修のエキスでもある。

 稼ぎ方ではなく、生き方のスタイルを確立してほしいという著者の願いが込められている。

「広告は、つねに人々の生活を明るく、豊かにする」
「広告は、つねに創造性のエネルギーに満ちたものである」
「広告は、つねに取引先の繁栄とともに進む」

 これは、1960年に博報堂が創立65周年を記念してつくった「博報堂宣言」である。
。当時はこれから日本が大量生産の高度成長期に突入しようとしていた時期である。
 その時代に今でも十分通用する企業のアイデンティティができ上がっていたというのは驚くほかない。



 高度成長期においては、生産者が大量生産で安く製品をどんどんつくり、消費者はそれを享受するだけだった。
 これから高度成長期に入ろうとしていた1960年には、もちろん消費者問題とか、顧客満足という言葉は生まれてなかった。

 ところが、1960年に出された「博報堂宣言」において、博報堂は大衆が何を欲しているか企業に伝える役割を担わなければいけないという斬新的な考え方を既に持っていたのだ。

 社会を代表して伝える役はそう簡単に務まるものではない。
 だからこそ、博報堂は組織も人も変えなければいけないと自覚した。

 博報堂の革新が始まる。

 博報堂には工場があるわけでなく、目に見える製品があるわけでもない。
 あるのは「コミュニケーションに関する独自の知識と技術」だけである。

 企業と生活者のまん中に立って、優れたコミュニケーション力を発揮しなければ博報堂に明日はない。

 そのため、人づくりに力を入れた。
 単に知識や情報を詰め込んだところで人材の完全な育成はできない。
 人と人の密接な関係を重視し、企業の中に蓄積された暗黙知を先輩から後輩社員に伝えていく。まるで徒弟制度のように人から人へ伝承しながら博報堂の風土は今日まで守り続けられている。



 著者の新人研修での第一声は「広告人の前に社会人たれ」であるそうだ。
 広告会社は自由で創造的で自己主張しやすい空気があり、一見華やかだ。
 だから何をしてもいいと勘違いする者も出てくる。
 卑しい人間がどんなに斬新な広告をつくっても後味が悪いものしかできない。

 すぐれた広告には、すぐれた思想があり、すぐれた人間性をかいま見ることができるものだ。

 技術だけ磨いてもだめだ。薄っぺらの専門家が人を感動させることなんてできない。

 生活者を一度裏切ると二度と戻ってこない。
 社会との対話はそれだけ厳しさが求められるのだ。



博報堂はクライアント企業と消費者のまん中に立って仕事を進める。
 そのことで社会的リスクも同時に背負うわけだ。
 企業に対しては広告会社としての責任を果たさなければいけないし、消費者も満足させなければならない。さらに、環境、教育、食育、暴力、人権、マナーなどの社会性にも十分注意を払わなければならない。これを怠ると品のない広告をつくることになる。

 広告は、企業、消費者、社会という3つの課題をクリアしなければいけないのだ。
 博報堂の仕事で花王石けんの「植物物語」はこれをクリアしたと思う。

 すなわち、石けんに植物原料を使ったことで、社会には「環境への配慮」、消費者には「身体に優しさと安心」、企業には「基幹ブランドとしの成長」というように三者に満足を与えることができたのだ。

 博報堂は社会的との関わりを深めていくことに力を入れ、誇りにも思っている。

 企業のテーマは人々に幸せをもたらすことである。
 いい仕事をすれば高い宣伝費を支払わなくても、人々十分にアピールすることができるのだ。

 

博報堂スタイル